休憩後の「ガイーヌ」が本日のお目当てです。ここ20年に渡る演奏会備忘録の中で、超有名な「剣の舞」のみ、バレエガラで1回、ファミリーコンサートで1回それぞれ聴いただけで、著名曲なのにノーマルな演奏会プログラムに乗ることが非常に珍しいのは、やはり扱いやすいコンパクトな組曲がないからなのでしょう。最初の原典版作曲ののち、ほぼ全ての曲を再構成した3つの組曲がありますが、第1組曲の抜粋に第3組曲の「剣の舞」と「ゴパック」を加えた構成で演奏されることが多いようで、今日の選曲もそのようになっています。ただ順番はストーリーを完全に無視し、バレエでは終了間際に出てくる「ゴパック」と「剣の舞」をあえて最初にもってくる曲順でしたが、これが驚くほどにしっくりとくる組曲編成になっていました。どうせなら多分「剣の舞」に次いで有名な「ガイーヌのアダージョ」も組み入れて欲しかったところですが。演奏は、金管がちょっとピリッとしない箇所はありましたが、リズミカルで小気味良くまとまった、完成度の高い演奏でした。「剣の舞」の高速裏打ちとか、少しの綻びも許されない緊張感がありますが、隙なくしっかりとまとめ上げたのは指揮者の統率力だと思います。終演後、最初に木琴奏者と小太鼓奏者が立たされるのは、この曲ならではですね。(そういえばどの曲でもチェレスタ奏者が立たされていましたが、全曲チェレスタ入りのプログラムというのも、結構特殊ですか。)
最後の「火の鳥」。全曲版はバレエの舞台も含めてよく聴きましたが、組曲盤は意外と実演ではあまり聴いておらず、おそらくこの曲が含まれるのは所謂「名曲プログラム」になってしまう場合が多く、避けていたからだと思いました。あらためて落ち着いて組曲を聴くと、2管編成に縮小されながらも充分以上の音圧を保ち、ストーリーに沿ってコンパクトに凝縮された、たいへんよくできた組曲だなあと感心しました。見かけがいかにもドイツ紳士で、芸術家というよりも大会社の社長のようなヴァイグレさん、ドイツ人らしい手堅さで破綻なくかっちりとまとめられた演奏でした。ただ後半を通して思ったのは、どの曲も申し分ない立派な演奏だったのですが、あんまり印象が後に残らない。すっと聴けてすっと流れていく、感情を捉える引っ掛かりをあえて作っていないように私には思えました。
このご時世、ロシアの音楽は敬遠されるどころか、何ならむしろ前よりも演奏会に乗る機会が増えている気がしてならないのですが、完全にニュートラルな立ち位置で無垢に音楽と向き合うことができなくなっているのかもしれないと気づきました。このオールロシアンプログラムを組んだ人々、それを演奏する人々、わざわざ聴きにくる人々、それらに何かしらの「意味」を求めてしまっている自分がいます。元々は、前半厳しく、後半楽しく、後腐れなく能天気に聴き流せるプログラムという以外、意味はなかったのかもしれません。複雑な邪念に悩まされることなく音楽を楽しめる平和な時間が、一日も早く取り戻せますように祈るのみです。
セコメントをする