MET Live in HD:イオランタ&青ひげ公の城
2015-03-28


2015.03.28 Live Viewing in HD from:
2015.02.14 Metropolitan Opera House (New York City)
Valery Gergiev / Orchestra of the Metropolitan Opera
Mariusz Treli〓ski (production)
Anna Netrebko (Iolanta-1), Piotr Beczala (Vaudemont-1)
Aleksei Markov (Duke Robert-1), Ilya Bannik (King Rene-1)
Elchin Azizov (Ibn-Hakia-1)
Nadja Michael (Judith-2), Mikhail Petrenko (Bluebeard-2)
1. Tchaikovsky: Iolanta (sung in Russian)
2. Bartok: Bluebeard's Castle (sung in Hungarian)

ライブビューイングはこれまでロイヤルバレエを何度か見ましたが、METは初めてです。遠く離れた日本でも前夜の公演を中継するので本当のライブに近いROHと違って、METは1ヶ月以上前、バレンタインデーの収録でした。司会のジョイス・ディドナートも言ってたように、バレンタインにはあまり見たくない演目だとは思います。

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前半の「イオランタ」は、チャイコフスキー最後のオペラで、初演は「くるみ割り人形」と2本立てだったとか。一幕のコンパクトな仕上がり、円熟極まった無駄のない構成、ひたすら美しいチャイコフスキー節、それでも彼のオペラとしては「スペードの女王」「エフゲニー・オネーギン」ほどのメジャーになり得なかったのは(METでも今回が初上演だそう)、おとぎ話とはいえ底の浅いストーリーのせいでしょうか。ポーランド国立大劇場の芸術監督でもあるマリウシュ・トレリンスキの演出はシンプルかつモダンですが、見たところシンボリックな作りでもなく、意味深な感じはしませんでした。しかし見ていくと存外凝った演出で、レネ王を除くほぼ全員が衣装の早変わりをするし、イオランタ姫に至っては一幕の中で2回も衣装を変え(LEDを仕込んだ最後のキラキラウェディングドレス含め、どれも胸の谷間強調系のオヤジキラードレスでした…)、細かいところでいっぱいお金がかかっていそうです。レネ王だけずっと軍服で通してましたが、彼だけ代役だったので、もしかして衣装が間に合わなかったのかも。

ネトレプコはすっかり恰幅がよくなりました。可憐なお姫様役はそろそろ無理があるかも。ただし歌唱は華と声量にますます磨きがかかって、母国語のオペラということもあり、有無を言わさぬ貫禄がありました。彼女に限らず歌手陣は皆さん本当に穴なしで素晴らしく、さすがMET、と言わざるを得ません。ベチャワはあまり縁がなく、2007年のチューリヒ歌劇場日本公演「ばらの騎士」で第一幕に出てくる空虚なテナー歌手(この役はけっこうスターがカメオ的に歌うこともあるのですが)を聴いたくらいでしたが、今まさに円熟期を迎えようとしている正統派テナーの丁寧な歌唱は、衣装はともかくオーセンティックな芸術的欲求を十二分に満たしてくれるものでした。病欠タノヴィツキーの代役でレネ王を歌ったイリヤ・バーニクは、名前と風貌が記憶の片隅にあったので記録を探してみたら、2012年にLSOでストラヴィンスキーの音楽劇「狐」を聴いた時、「山羊」役だった、まさに風貌が山羊のバス歌手がその人でした。王様の貫禄まるでなしなので外見は全くミスキャストなんですが、歌は重心が低くたいへん良かったです。

インターミッションは出演を終えたばかりのネトレプコ、ベチャワ、ゲルギエフへバックステージでインタビューを行うわけですが、ディドナートが、まあようしゃべること。この人は本当に司会者向きです。ネトレプコは出番が終わった開放感からか、やけにハイテンションで、「バレンタインデーに何でこんなの見てるの?早く家に帰って愛を確かめましょう!」などとのたまい、あわてたディドナートが「いやいや最後まで見ていって」と思わずフォローする微笑ましい場面も。ゲルギーの堅めのインタビューのあと、突然フローレスが登場し、二人が出演する次のライブビューイング「湖上の美人」の宣伝もちゃっかり。一番最後にはMET賛助会員の寄付募集までアナウンスして、この抜け目ない番組構成はROHにはなかったもの、まさにアメリカ式ですなー。


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