LPO/ユロフスキ:ホロコーストと、「運命」と
2012-11-28


だがちょっと待て。ベートーヴェンの歓喜の主題と言えば、どう考えても「第九」なのでは。まあ、交響曲第5番を「運命」と呼ぶのはほとんど日本だけだそうですが、このモチーフは少なくとも歓喜を表しているようには思えないので、ちょっとコジツケを感じてしまいました。ともかく、非常に速いテンポで曲が進み、フレージングが上滑り気味で、意図してのことかどうか、正に何かに急き立てられる感じです。第2楽章では打って変わってノンビブラートのヴィオラ、チェロがゆったりと澄んだ響きを奏で、その後は比較的素直な「運命」でした。超難曲揃いの今回のプログラムで、最後にやり慣れた「運命」が来ると一気に気が抜けそうなものですが、今日のロンドンフィルはそういうこともなく最後まで高い密度を保っていたのが立派です。ただ、こういったコンセプトものに組み入れられた「運命」は、何か型に嵌められてしまった窮屈さをちょっと感じてしまったのも事実。本来は、人類の罪とか何とかを超越し、心を無にしてひたむきに聴くだけで十分に心打たれる音楽なので、意図的な色付けはかえって邪魔な場合もあります。

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[ロンドン・フィルハーモニー]

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