LSO/パッパーノ:新任ナイトによる英国音楽の夕べ
2012-01-10


2012.01.10 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra
Antoine Tamestit (Va-2)
1. Thomas Ades: Dances from ‘Powder her Face’
2. Walton: Viola Concerto
3. Elgar: Symphony No. 1

正月のROHに引き続き、パッパーノ。もちろんナイト付与が発表されてから最初のLSOの指揮台なので、パッパーノが登場するや会場は早速大歓声に包まれました。しかも今日は、最初からこの日のために仕組まれたかのようなオール英国プログラム。普段なら地味な選曲ですが、今日はバルコニーに人を入れてなかった分、ストールとサークルはほぼ席が埋まっていました。

1曲目の「パウダー・ハー・フェイス」は一昨年、同じくLSOに作曲者自身の指揮で聴いていますが、怪しい雰囲気はあるものの前衛ではなくわりと聴きやすい曲です。パッパーノはオペラのときと同じく、楽章間でも聴衆の咳など気にせずさっさと次に進みます。アデスが指揮したときはリズムにメリハリを付けてもっとワルツらしい演奏だった気がしますが、パッパーノは大胆にテンポを揺らして世紀末的な猥雑さを強調していました(確かに、この曲は20世紀末の作曲です)。

2曲目、ウォルトンのヴァイオリン協奏曲は何度か聴いていますが、ヴィオラ協奏曲は初めてです。中音域でつぶやくような導入から始まり、時折感情の高ぶりを見せながらもまたすぐに静まるというのを何度か繰り返す煮え切らない第1楽章、変拍子多用の複雑なリズムでたたみかけるように進行する第2楽章、ユーモラスなファゴットで開始し、美しくも物悲しいクライマックスを迎えた後は悲壮感を引きずったまま静かに終わる終楽章。英国らしいというか、節度を感じる理知的な曲でした。演奏の良し悪しは、うーん、ヴィオラは綺麗な音でよく響いていましたし、とは言え「俺が俺が」の自己主張があまりないのはやっぱりヴィオラ奏者の特質ですかね。

さてメインはエルガーの交響曲第1番。ご当地モノの代表格です。実はこれもほとんど聴いたことがない曲ですが、Wikipediaによるとイギリスやアメリカでは人気の高い曲だそうです。日本だと、エルガーといえばやっぱり「威風堂々」とせいぜい「エニグマ変奏曲」で止まってしまいますもんねえ。まるで国歌斉唱みたいに壮大で格調高い序奏はいかにもエルガーという感じですが、続く短調の主題とその展開は、ブラームス的なドイツ交響曲の王道に則った、ちょっと「よそ行き」の顔に思えました。万人が口ずさめる大衆的な旋律だっていくらでも書けちゃうのに、あえて窮屈な主題を選び、それを無理矢理に展開して行ってるような。しかしその展開がつまらないなと思えてしまう箇所も多く、冗長に感じたのが正直なところです。1時間も引っ張る曲じゃないだろうと。比較的リラックスした雰囲気の中間2楽章が、むしろ好ましく思えました。

それはともかく、パッパーノ大将の導く演奏は予想に反してオペラチックな演出ではなく、カンツォーネ的歌謡曲でもなく、形式張った曲想に波長を合わせた節度のあるものでした。とは言えクライマックスではオケを盛大に鳴らし、終始鋭いアクセントを叩き込んでいたティンパニを筆頭に、よくぞここまでというくらいの音量、音圧を引き出して、さすがに起伏を作るのは上手い人です。終演後の拍手が盛り上がったことと言ったら!イギリス人は自国のものにはけっこう冷淡という印象も持っているんですが、やっぱり皆さん、エルガーは大好きなんですねえ。


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